井上千鶴の言葉
井上千鶴のことば
美術館
熱海MOA美術館が、リニューアルOPENしたと聞き、
紅・白梅図(尾形光琳画)が見られると勇んで新幹線に乗り込みました。
海の向い、山の斜面に建てられた美術館の周辺には、梅林が広がり
馥郁たる香りと共に3分咲きの花が観光客を迎えてくれました。
15年前に来た時以来ですが、リニューアルOPENということで、
多くの人々が来館されています。
山の下よりエスカレーターを乗り継ぎ、1階へ無機質な広い空間に
ゆったりと配置された名品の数々を人垣の間をくぐり、見て回りました。
平安時代の阿弥陀如来と脇侍の3坐像の優美な姿。
有名な光悦の蒔絵硯箱の豪快な意匠、雅な仁清の藤壷、そして圧巻の光琳、紅白梅図。
香気ただよう元禄婦人群像等々、日本の優美の代表格を見る展示を見終えて、
茶の庭に出ると光琳の京都新町の屋敷が復元されています。
とても興味深い、素敵な町家です。
最後に海を臨む庭のお茶屋で、お薄をいただき、2時間半の鑑賞を終えました。
日頃、目にする事が出来ない、品々が静謐な空間にガラスを隔てて見るのは、
いかに立派な凄い物であっても、物でしかないのです。もちろん私にとっては、
美術鑑賞、見る目を育てるという意味で大変勉強にはなるのですが、その存在は、
余りにも遠く、楽しめるという域を越えてしまっています。
美術館、博物館はもちろん、こういう物なのですが、本来そのような事を
想定して創られた物ではないはずなのに、と思えば何かもう少し身近に美しい、
楽しい物を手に取り、感じ、そういう物に囲まれて ” 遊ぶ ” なんて事は
出来ない物なのかと思いながら、熱海の山を下りました。
大層なことは出来ない迄も、少しづつ、楽しみで集めた我楽苦多の道具を使い、
親しい友と語り合える会等、時折、催したいものだと思った早春の一日でした。