井上千鶴の言葉
井上千鶴のことば
とかげの子供
ようやく朝夕がひんやりとした日が続きます。
薄の穂が風になびき庭の秋海棠や秋明菊が清楚な花をつけています。
心地のよい風に当たりながら庭に出たとたん、
足元に小さな(6㎝位)何かが、くるくると身をよじ引いて転んでいます。
驚いて足を止め目を懲らすと幼いトカゲの子供が、お腹を上にしてほとんど
バンザイ状態です。
私が多分、知らずに踏んでしまったようです。可愛い目を見開き、動きが
止まってしまっています。死んだのでしょうか、手に取り小さなお腹を
さすっても、もう動きません。不注意で殺してしまいました。
私の家の庭の散水栓の付近を住まいにしているのでしょう。
毎年春から、夏にかけてはよく見かけるトカゲの家族の一員なのでしょう。
小さな命ですが、何とも言えない辛い事故でした。紅葉の木の下に埋めました。
しかし、その晩、ゴキブリが出たのです。何の抵抗もなく即座にゴキジェットを
一吹きし、殺生しました。
小さな命に変わりはないのに、自分の対応の違いに考えてみれば、
どうしてこんなに異なった気持ちになれるのかと、つくづく思いました。
人間とは観念によって行動が決められる者なのかと不思議な気持ちになると同時に
それが、ゴキブリでなくて、物であったり、人であったり、はたまた国であったりと、
一度レッテルを貼る、あるいは色メガネで見ると、そこから抜け出す事が困難に
なるのでは、等と考えるのは、考え過ぎなのでしょうか。
トカゲの子供の死とゴキブリの一日でした。