井上千鶴の言葉

井上千鶴のことば

 

10月5日

 

昨日より来年の麻布の総合カタログの撮影が始まりました。

例年の仕事の運びなのですが、今年は留守番をしてくれる博道が居ません。

去年の今頃、アシスタントの人と私が自宅を出かけるとき

「お父さん、お弁当作ってあるから適当に召し上がってね。」

「トンネルの撮影は牧田(アシスタント)さんと一緒に行ける時にしてくださいね。」

という言葉を残して出発しました。(「分かった」という返事も確認せずに)

 

そして会社で撮影中、2時頃に警察よりの電話でトンネルの事故のことを知らされました。

ちょうど1年前の10月5日のことでした。

お弁当も到来物のお隣の栗の実を入れた栗ごはんに秋茄子の煮浸しに卵焼き。

今日もほとんど同じお弁当を私は食べました。

それ以降、博道と話しをすることは全くできませんでした。

1年が経ちました。

いつもいつも居るのが普通であった40年余りの年月の重さを感じた1年でした。

 

その間に社会も変り、私たちの扱う商品の傾向も少しずつ変化してきました。

多分、今後はその速度が速くなってくることでしょう。

ひとりの人が生を終えてもその人の記憶はそこで静止したままですが周辺は時と共に変化します。

そうしたことでゆっくりと昔の記憶として思い出のアルバムに貼り付け、自分を立ち直すことになってゆくのでしょう。

 

今朝の散歩では金木犀の香りが其処此処のお庭から香り立ち

一枝頂戴しては一輪挿しの花器に挿していた博道のことを思い出しました。

 

 

 

 




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